生活習慣病とは

生活習慣病とは

生活習慣病というとあまり日常では耳にしたことがないかもしれませんが、高血圧や糖尿病というと聞いたことがあるのではないでしょうか。生活習慣病にはほかに脂質異常症や高尿酸血症などがあり、健康診断で指摘された方がいらっしゃるかもしれません。

生活習慣病は、初期にはほとんど症状がないため、健康診断で指摘されてわかる場合が多いのですが、そのまま放置されがちでもあります。しかし生活習慣病は動脈硬化を進行させる要因でもあり、放置していると心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる病気につながるものでもあります。

日本人の死亡原因の3分の2は、もとをたどれば生活習慣病に起因するものとも言われています。健康診断などで異常が指摘された、不安な症状がある、といった場合は、お早めにご相談ください。

高血圧症

高血圧症とは、正常の血圧よりも高い状態が続いてしまう病気です。正常の血圧とは、

  • 最高血圧(収縮期血圧)…120mmHg以下
  • 最低血圧(拡張期血圧)…80mmHg以下

とされています。医療機関での外来時に、繰り返し測定した結果、正常値を超えて、収縮期血圧が140mmHg以上、もしくは拡張期血圧が90mmHg以上となると高血圧と判断され、高血圧の状態が続くと高血圧症と診断されます。

血圧が高い状態が長期にわたって続くと、血管は常に張りつめた状態になり、高い圧力にさらされた血管は、次第に厚く、弾力が失われて硬くなっていきます。これが動脈硬化と呼ばれるもので、血管の内径も狭くなっていき、傷つきやすくもなります。傷にはコレステロールなどが付着しやすく、さらに血管の狭窄が進み、また血圧が上昇するという悪循環に陥ってしまいます。これが脳梗塞や心筋梗塞につながってしまうのです。

高血圧症は、腎臓の病気や甲状腺の病気など、ほかの疾患が原因で血圧をコントロールするホルモンのバランスが崩れて発症する場合があります。しかし高血圧症の大部分は、遺伝的要因を背景に運動不足、食生活等の環境因子により発症する生活習慣病です。そのため高血圧症の改善には、まず食生活を見直す必要があります。

高血圧症の改善で大切なのが塩分を摂り過ぎないことです。目安としては1日あたりの塩分摂取量を6g以下に抑えることが推奨されています。それとともにバランスの良い食事を心がけ、過度の飲酒はしないといったことが大切です。このほか、喫煙は血圧を上げ、動脈硬化を促進しますので、禁煙することが必須です。

食習慣などを改善しても血圧のコントロールが難しい場合や、脳梗塞、心筋梗塞等の合併症のリスクがあり、速やかに血圧を下げる必要がある場合は、薬による治療を並行して行います。薬の種類としては以下のようなものがあります。

  • カルシウム拮抗薬…血管を広げて血圧を下げる
  • ARB,ACE阻害薬…血圧を上げる物質の作用を抑える
  • 利尿薬…尿からの塩分排出を促す
  • β遮断薬…血管を広げ心臓から送り出される血液の量を抑える

これらの薬を、患者様の状況に合わせて選択していきます。

糖尿病

食事によって摂取された栄養はブドウ糖などになり、血液によって全身に運ばれます。この時、ブドウ糖の血中濃度(血糖値)が高い状態(高血糖)が慢性的に続くと、糖尿病と診断されます。通常血糖値は、空腹時に70~100mg/dl、食事をすると血糖値は上がりますが、上限は140mg/dlくらいとされており、これよりも血糖値が高い状態が高血糖となります。血糖値は血液検査によって調べますが、その際、血糖値のほかHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)の数値を調べ、糖尿病の診断をします。

高血糖の状態が続くと、血液中のタンパク質と結びついて糖化し、有害物質となることで血管を老化させるなど、ダメージを与えてしまいます。とくに微細な血管が障害されやすく、細小血管が集まっている網膜、腎臓、神経に合併症が現れるようになり、「糖尿病三大合併症」と呼ばれる、以下のような疾患を引き起こしてしまいます。

  • 糖尿病網膜症…網膜が障害される病気で、日本人の失明原因の第2位です
  • 糖尿病腎症…腎臓機能が低下する病気で日本人が透析治療となる原因の第1位です
  • 糖尿病神経障害…下肢切断や全身性の感染症など重篤な状態を引き起こす病気です

また太い動脈でも動脈硬化が起こりやすくなり、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などを合併しやすくなります。

糖尿病は、その原因によってⅠ型とⅡ型に分かれます。ブドウ糖は膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによって血液中から細胞に取り込まれますが、Ⅰ型糖尿病は自己免疫疾患によって膵臓の細胞が壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなることで発症するものです。

一方、Ⅱ型糖尿病は、おもに遺伝的要因のある方が、好ましくない生活習慣の継続により膵臓からのインスリンが相対的に分泌不足になったり、その量が充分でもインスリンが効きにくくなったりして(インスリン抵抗性)発症します。原因となる生活習慣としては、不規則な食事、過食、運動不足などや、それによって引き起こされる内臓脂肪型肥満、さらには喫煙、過剰な飲酒、ストレスなどがあります。日本人の糖尿病は9割以上がⅡ型と言われています。

Ⅰ型糖尿病の治療では、分泌されなくなってインスリンを人工的に補うインスリン自己注射を行います。Ⅱ型糖尿病の治療では、まず原因となる生活習慣を改善する食事療法や運動療法を行います。それでも血糖値がコントロールできず、合併症のリスクが高いと考えられる場合は、経口血糖降下薬などの薬による治療を行います。それでもインスリンの分泌が少なかったり、働かなかったりして、血糖値が下がらない場合は、Ⅰ型糖尿病と同様にインスリンの自己注射を行うことになります。

脂質異常症

脂質異常症は、血液中に含まれるコレステロールや中性脂肪などの脂質が、正常とされる基準を外れている状態を指しています。脂質異常症と診断される基準値は以下のようなものです。

  • LDL(悪玉)コレステロール値≧140mg/dL(高LDLコレステロール血症)
  • 中性脂肪≧150mg/dL(高トリグリセライド血症)
  • HDL(善玉)コレステロール値<40mg/dL(低HDLコレステロール血症)

脂質は本来、大切な栄養素の一つです。コレステロールは細胞の膜やホルモンのもとになるもので、コレステロールのうち、LDL(悪玉)コレステロールは、体の隅々までコレステロールが運ぶ役割、HDL(善玉)コレステロールは、体に余ったコレステロールを回収する役割をします。また中性脂肪(トリグリセライド)はエネルギー源となりますが、摂り過ぎると使いきれず、肝臓や血中に蓄積されて、肥満の原因にもなります。

脂質異常症自体に自覚症状はほとんどなく放置されがちですが、悪玉コレステロールや中性脂肪が血中にあふれている状態が続くと、血管の内壁にコレステロールが付着するようになります。すると粥状の物質(プラーク)ができて、粥状動脈硬化に至り、狭心症の原因となります。さらに進行するとプラークが剥がれ、血管を詰まらせてしまう危険があります。

プラークが心臓の冠動脈に詰まると心筋に血液が届かず、心筋梗塞を引き起こし、脳の血管に詰まると脳梗塞や脳出血を引き起こします。また手足に繋がる血管の動脈硬化は、手足に痛みやしびれが生じる閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)の原因ともなります。最悪の場合、組織が壊死してしまう危険があります。

脂質異常症は、脂質の多い食品の摂り過ぎや、運動不足などでエネルギーがあまり消費されないことで、血液中に脂質が余り、引き起こされます。そのため脂質異常症の改善には、動物性脂肪や乳脂肪の摂取を控え、食物繊維を多く含む食べ物や、不飽和脂肪酸(EPAやDHA)を多く含んだ青魚や植物性の油などを摂るようにするといった食生活の改善が重要になります。また適度な運動習慣、禁煙、ストレスを溜めないようにすることも大切です。

食事や運動などの生活習慣の改善だけでは脂質がコントロールできず、動脈硬化やそれによる狭心症、脳梗塞といった合併症を発症する危険がある場合は、薬による治療も併せて行います。使用する薬としては、主にコレステロールを合成する酵素を阻害するスタチン系薬と呼ばれるものや、中性脂肪を低下させる薬、EPA・DHA製剤、漢方薬などがあります。

高尿酸血症

血液中に含まれる尿酸という物質の量が増え、血中の濃度を表す尿酸値が7.0mg/dlを超えた状態になると高尿酸血症と診断されます。高尿酸血症も、ほかの生活習慣病と同様に初期にはほとんど症状はみられませんが、尿酸値が高い状態が続くと「痛風」という激痛を伴う発作が現れる場合があるのが特徴です。

尿酸とは「プリン体」という細胞の代謝や体を動かすエネルギーとして重要な物質を、分解したときに出る老廃物のことですが、水に溶けにくい性質のため、血中濃度の高い状態が続くと、針状に結晶し尿酸塩という物質になります。これが関節部分に溜まると強い炎症を引き起こし、激痛をもたらし、痛風発作を引き起こします。足の親指などで発症することが多く、風邪が当たっても痛い、ということから、この名があると言われています。

尿酸塩は関節以外に、腎臓などに溜まる場合があります。腎臓に溜まると腎臓結石となります。その結石が尿管や膀胱に移動すると尿路結石となり、やはり激痛を伴う症状が現れます。高尿酸血症が改善されず、結石が慢性化して繰り返すようになると、腎機能が低下したり、動脈硬化を促進して心筋梗塞や脳梗塞などの合併症のリスクが高まったりしてしまいます。

このほか、痛風結節と呼ばれる固いできものが現れることもあります。指や手、アキレス腱の周辺にみられることが多いものですが、通常、痛みなどはありません。しかしそのまま放置してしまうと、関節の変形につながることもあります。

尿酸値が上がる原因は。プリン体を含む食べ物を摂り過ぎる、もしくは腎臓の尿酸排泄機能の低下、あるいはその両方と言われています。尿酸値を下げていくためには、まず食生活を改善し、プリン体を多く含む食品を摂り過ぎないようにすることが重要です。

プリン体はほとんどの生物の細胞内に存在するため、様々な食品、とくに肉や魚、鶏卵、魚卵、ビールなどに多く含まれています。プリン体ゼロと謳われているビールなどでも、アルコール自体に尿酸の産生量を増やし、排泄を阻害する働きがあるほか、利尿作用によって体内の水分量が減少し尿酸値が上昇しやすくなりますので、アルコールの摂取は控えることが大切です。

薬による治療としては、尿酸の生成を抑える薬、尿をアルカリ化する薬、尿酸の排泄を促す薬などがあり、症状に併せて処方していきます。また痛風の発作が出ている場合、関節炎を抑える薬として、主に非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を使用していきます。